アメリカでは基本、「バランスドオクルージョン」です。
リンガライズドかフルバランスかはどちらでもいいということになっています。うちのディレクターはフルバランス派ですが。
ここでいうバランスというのは、前方運動の時には前歯と臼歯が、側方運動の時には作業側と非作業側の歯が切端位に至るまで同時に接触滑走し、義歯を安定化させます。
このような義歯を作製するには、どのようにしてバランスドオクルージョンが構築されるのか、その原理を知る必要があります。その原理とはずばり「Hanau's Quint」です。
そしてHanau's Quintを知ったならば、あれ「顆路傾斜」って一体臨床的にどうやって記録するの?って思わなきゃだめです。顆路傾斜は「クリステンセン現象」を利用した「チェックバイト法」によって記録します。
顆路傾斜を咬合器に反映させるためには、平均値咬合器ではだめなのです。半調節性咬合器です。平均値咬合器とはその名もずばり、「顆路傾斜が30度(ギジーによると平均値は33度)」に固定された咬合器。これではバランスドオクルージョンが構築できるとは思えません。
さらに、上顎模型を咬合器にマウントするときはフェイスボウが必須です。というのも、フェイスボウを使う大きな利点の二つとして、
① 生体と咬合器の開閉口軸を近似させる
② 偏心運動の際の誤差を小さくする
ことがあるからです。
これは根拠となる保母先生の1976年の論文を「Articulator」のフォルダにアップしておきました。非常に優れたよい論文なので、ぜひ一読をお勧めします。この論文はそのうちこれ単体で研究会で取り上げようと思っています。
バランスドオクルージョンを構築するにはこの②の利点が非常に重要になってきます。口腔内と咬合器上で偏心運動時に動く軌跡が違っては、調整のしようがないからです。
さらにフェイスボウを使って生体と咬合器の開閉口軸を近似させておくと、患者さんに総義歯を渡す直前、最後の総仕上げ「クリニカルリマウント」が行えるようになります。クリニカルリマウントにおいては、咬合器上で咬合高径を変更しながら咬合調整していく必要があるので、生体と咬合器の開閉口軸を近似していないと、どんどん咬合がずれていってしまうからです。
クリニカルリマウントがいかに強力な効果を発揮するかはクリニカルリマウントの項で論文を一本提示しながら簡単に説明させていただきました。ニューヨーク大学で補綴レジデントプログラムを修了された白先生からは「義歯作成が仏を彫る作業だとすれば、クリニカルリマウントはその仏様に魂を入れる作業だと言えます。生体と人工物を繋げる作業とも言えますね。」との力強いコメントをいただきました。
以上、アメリカの補綴専門医がどのように総義歯を作製しているのかを簡単にレビューしました。アメリカの補綴専門医がなぜ総義歯の症例に半調節性咬合器を使うか、なぜフェイスボウを使って上顎模型をマウントするか、その理由の一端が垣間見えたことと思います。
詳しいことはさらに文献を読み進めていく中で、また実際の症例を見ながらお話していきたいと思います。