パーシャルデンチャーの抱える根源的な問題は、咬合力が加わった時の歯と顎堤の被圧変位量の差が大きいことです。力が加わった時に、顎堤は歯に比べて250倍沈み込む(DeVan,1956)と言われており、咬合力が義歯床に加わった時に支台歯をいかに有害な力から守るかがパーシャルデンチャー成功の鍵を握ります(さもなければパーシャルは単なるカンチレバーになってしまい、支台歯への負担過重は避けられません)。
また、「歯の長軸方向以外から加わる力」は「歯の長軸方向から加わる力」に比べて17.5倍有害であるとの報告があり(Synge et
al,1935)、このため、義歯床に加わる力をいかに歯の長軸方向に変換して支台歯に伝達するかも、パーシャルデンチャー設計におけるもうひとつの重要な課題です。「Torquing Force=歯を回転させる力」と「Tipping Force=歯を遠心に傾ける力」は特に有害なので注意する必要があります。
義歯床に加わる力をいかに支台歯に伝達するかについては、いくつかの異なるフィロソフィーが存在しますが、ステュワート派では「Broad Stress Distribution」を採用しています。これはなるべく多くの歯、なるべく広い面積の顎堤に力を分散することで、有害な力の集中を軽減するというコンセプトです。なので、義歯の外形はほとんど総義歯の外形に準じます。
ステュワートの設計の根幹を支えるのは「メジャーコネクターのリジデティ=剛性」です。剛性というのは、力が加わっても簡単にたわんだりしない、ということです。このメジャーコネクターが義歯床に加わった力を各要素に伝達します。なので、ステュワート派が用いるメジャーコネクターは「パラタルストラップ」「前後パラタルストラップ」「パラタルプレート」「リンガルバー」「リンガルプレート」に限られます。「パラタルバー」はステュワートでは使いません。「ホースシュー」もケネディ4級を除いて使いません。
ステュワートの設計を特徴付けるものに、「遊離端部における維持装置の設計」があります。ステュワートでは欠損部顎堤に隣接する支台歯に「無条件に」遠心レストを設置します。アンダーカットが近心の場合は遠心から「ワイヤークラスプ」を、アンダーカットが遠心にあって顎堤の条件が許すならば「Tバー」を好んで用います。
さて、ワイヤークラスプはその断面が「丸い」ことが非常に重要で、これは「全方向性の柔軟性=オムニフレキシビリティ」を発揮します。咬合時に義歯床に力が加わった時にワイヤークラスプ自体が全方向性にたわむので、支台歯には軽い上方向の力が加わります。つまり「Torquing Force=歯を回転させる力」も「Tipping Force=歯を遠心に傾ける力」も生じないということです。
一方で、遠心キャストエーカースクラスプはその断面が「半円」です(=頬舌的にしかたわまない)。なので、咬合時に義歯床に力が加わった時に上手くたわまず、歯をひっかけてしまいます。この時遠心レストを中心として歯を抜歯するような、有害な「Torquing
Force=歯を回転させる力」「Tipping Force=歯を遠心に傾ける力」を生じます。なので、遊離端に遠心キャストエーカースクラスプはステュワートでは基本的にはやりません。
ステュワート 第4版より引用
「Tバー」はキャストクラスプではあるものの、義歯床に力が加わった際に、遠心レストを中心に回転沈下した結果、「歯を近心方向へ押す力」が発生します(遠心キャストエーカースと違って、遠心のアンダーカットを使用しているため、二枚目の写真)。この力は支台歯が孤立歯でない限り、隣在歯によって支えられるので問題がないということになっています。同じ理由で、近心キャストエーカスも許容されます。
ステュワート 第4版より引用
RPIとRPAについては、我々は少し注意して語る必要があって、大事なのは、ステュワートはこれ以外の組み合わせを一切認めていないということです。なので、近心レストを使用する場合は「近心エーカース」か「RPI」「RPA」以外にありません。Iバーの代わりに遠心からワイヤーという設計もよく見かけますが、ワイヤークラスプとIバー、単純エーカースではその性質が全く違うので、私たちはRPW(近心レスト、隣接面版、ワイヤークラスプ)が本当に機能するのかをまず真剣に論じなくてはなりません。また、RPIで把持腕がないのは「必然」で、RPIは近心レストに回転中心があることが大前提で、把持腕をつけてしまったらその把持腕が回転中心になってしまう可能性があるので大変危険とのことです。なのでこれもステュワートではやりません。
簡単に見ていきましたが、ステュワートの設計理念の特徴は「単純性=simplicity」にあります。最大限の支持、把持を確保して、維持は遠心レスト+ワイヤーかTバーです。
ステュワートの設計はケネディ分類に従って、与えられたパーツを各所に応用していくというイメージです。このときに、設計の原理原則に従うことが重要です。原理原則を破ったときにそれが口腔内でどのように機能するかを考えるのは、かなりの経験がいるとともに失敗した時のリスクが大きいからです。