去年サンアントニオで勉強していたときに、ディレクター(=プログラムの最高責任者)のDr.Haneyから歯科治療には二つの「モード」があると言われました。
ひとつは「Conformative Dentistry」。
もうひとつは「Reconstructive Dentistry」(「Rehabilitative Dentistry」)。
たとえるなら、家のリホームがConformative Dentistry、全く新しい家を建てるのがReconstructive Dentistryにあたるといえるでしょう。
Conformative
Dentistryは、生理学的に正常範囲にある患者さんに対して、その患者さんの今の状態をなるべく変えないようにしながら行う歯科治療のことを指します(あるいは経済的な制限があって、大掛かりな治療が行えない場合なども含む)。たとえば咬頭嵌合位を変えないようにしながら、一歯、二歯の治療を行うようなケースがこれに当たります。この治療のモードでは、学生時代に習った基礎的な補綴の知識がベースになります。
Reconstructive Dentistryは、生理学的に異常な状態にあって、患者さん自身が我慢したり、その異常な状態に適応することを強いられている際に、患者さんの現在の口腔内環境を「再構築」する歯科治療を指します。一番わかりやすいのはTooth
Wearの患者さんなどでしょう。この場合咬頭嵌合位は当てにならないので、中心位を基準にしながら患者さんにとって最も快適な顎位を検討するところから治療が始まります。
この治療のモードでは、美しいスマイルをデザインしたり、輝くような白い歯を与えることによって患者さんの人生を一変させることができる反面、失敗した場合に回復不能なダメージを患者さんに負わせることになります。
アメリカの歯科治療といえば派手な全顎セラミック治療のようなものを想像する方もおられるかと思いますが、全然そんなことはなくて「Conformative
Dentistry」という形で日本の保険診療のような患者さんの主訴に対応する一歯単位の治療も多いのです。これらは主に一般歯科医師の領分です。そして、一般歯科医師が、これは複雑で手に負えないと思った症例が専門医の元に送られ、そこで「Reconstructive Dentistry」が行われます。
アメリカでは、「Reconstructive Dentistry」を遂行するに足る能力を持つ歯科医師を育成するために、「Continuing Education Courses(アメリカ卒後研修コース)」と「Graduate Program in Prosthodontics(補綴専門医プログラム)」が用意されています(学生時代に習う補綴の知識では対応不可能なため)。
別に「Reconstructive Dentistry」をやるのに補綴専門医である必要はなく、一般歯科医師の中にも優れた知識と技術を持つ方はいっぱいいます。例えばサンアントニオの開業医、Dr.Robbinsがその典型です。Robbinsは三年間のContinuring Education-卒後研修を経ているのでこのときに「Reconstructive
Dentistry」にまつわる知識と技術を習得したものと思われます。
Robbinsのケースはこちらから
http://www.beckelrobbinsdds.com/smile/
サンアントニオの補綴レジデントは、ディレクターから、「Reconstructive Dentistry」のケースのみをスクリーニングして、ピックアップすることを命じられています。僕たちは僕たちの三年間の全てを「Reconstructive Dentistry」の実践と、その知識と技術の習得に捧げます。
「知識」は古今東西の補綴に関する論文を読むことで。
「技術」は実際のケースを治療する中でひとつひとつのテクニックを丁寧に伝授されます。
アメリカでは「Reconstructive Dentistry」を実践する治療システムは、「ナソロジー」と「PMSテクニック」しか存在しません。ですので、この二つのシステムに精通することが必要です。
そしてどちらのシステムもその中心教義、肝心要は「中心位」です。中心位なくして「Reconstructive Dentistry」は成り立たないといっても過言ではありません。この研究会では、まず、「中心位」に関する理解を深めるところから始めようと考えています。