Diagnosisとは、「この患者が抱える問題はなんなのか=What's wrong with them?」を考えるのではなくて、「いかにして患者がそのような状態に至ったのか=How do they get that way?」を考えることだとサンアントニオのディレクターは言います。
たとえば、クリニーング希望で来院した30歳の患者さん。特に主訴はありません。ところが、口の中を見たあなたは患者さんの口の中の所々に「歯肉退縮」があるのに気づきます。主訴に注目し、「患者の抱える問題はなにかを考える治療」では、この歯肉退縮は多くの場合見逃され、放置される結果になります。Diagnosisは、なぜこの患者が年齢に不相応な歯肉退縮を得るに至ったのかを考える必要が有ります。
よく観察してみると、患者の歯肉がとても薄いのに気づきます。いわゆる、「Thin Scalloped type」というやつです。おそらく不適切な歯ブラシと患者自身ん歯肉の質がこの歯肉退縮を引き起こしたのだとわかります。これが「いかにして患者がそのような状態に至ったのか」の意味です。
つまりDiagnosisは、「Thin scalloped typeの歯肉タイプで、限局性の中等度歯肉退縮が認められ、それは今後進行する可能性が高い」となります。そして治療方法は「結合組織移植によって露出した歯根面をカバーする」となります。もちろん適切なブラッシング指導も必要です。
このように、すべての歯科治療はDiagnosisに基づいて行わなければなりません。不完全なDiagnosisは質の低い歯科治療につながります。
問題なのは、私たちは歯学部で「一歯単位の歯のDiagnosis」しか習っていないことです。「右上1が失活しています」というのはたしかにDiagnosisではありますが、もしすべての歯がひどくすり減っていてそのせいでたまたまその歯が失活したのだとしたら、その歯一本を治療したところで大勢は全く変わりません。ここで重要なのは、口腔内全体を見渡し、「どうして患者がこのような状態=すべての歯がひどくすり減る状態に至ったのか」を考えることです。この研究会を進める過程で「一口腔単位の治療がどのようなものか」についても触れていきたいと思います。一口腔単位の治療とは、学生時代に習うような一本一本の歯の診査診断の詰め合わせなどではないのです。