CAMBRA


【CAMBRA】
ー患者さんのカリエスリスクをどう評価するかー
 
 
こっち来て新鮮だったのが、「カリエスの評価基準」と「補綴治療計画」が直結してること。日本の大学で診療してた頃はほとんど誰も「患者さんのカリエスリスクに応じて補綴計画を変える」なんてことしてませんでした。なので、
 
口腔乾燥・歯ブラシうまくできない・ほとんど全ての歯が虫歯で咬合崩壊してたカリエスリスクの超高い患者さんの歯を全部削ってTEKにしたはいいけど、TEKの期間が長くなりすぎて最初に治療した歯がどんどん虫歯になっていって治療が一向に終わる気配を見せないというスパイラルにはまった先生や患者さんを、所属していた医局が高齢者歯科だったこともあり、よく見かけました。
 
そういう場合、抜歯→総義歯が術者にとっても患者さんにとっても優しい選択であることが往々にしてあります。こうした理由で、うちの補綴科では「即時義歯」がめちゃめちゃ多いです。日本の場合、やっぱり患者さんは歯を残されることを希望することが多く、日本の保険の診療ではそれが低コストで実現できてしまうため、全抜歯を勧めてもなかなか受け入れてもらえる場面が少ないですよね。
 
 
カリエスリスクを評価するシステムは色々ありますが、「CAMBRA」というのが有名です。CAMBRAシステムは以下のとおり。是非原著も読んでみてください。
 
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現在カリエスが口腔内にある患者は無条件に「ハイカリエスリスク」に分類されます。また、口腔清掃状態が悪いからといって、その患者が「ハイカリエスリスク」とは限りません。大量のプラークがありながらも、カリエスフリーの患者を私たちはよく見かけます。
 
カリエスリスクを評価する際は、以下をまずは評価します。
 
《4つのカリエスインディケーター》
① 明らかなう窩があり、レントゲン上でそれは象牙質まで達している
② レントゲン上で確認されたエナメル質に限局するう窩
③ う窩はないが、白斑が肉眼で確認できる
④ 過去3年間に修復物を装着した既往がある
 
これらの4つのインディケーターが今後患者が新たなカリエスを作るかどうかを判断する上で重要な指針となります。すでに治療が施され、カリエスの進行が止まっていない限り、上記4つのうちひとつでも当てはまるものがあれば、患者は無条件に「ハイカリエスリスク」に分類されます。う窩の形成は細菌のう蝕活動性が高い証拠であり、クラウンやインレーによって修復治療を行ったとしても、口腔内のう蝕活動性を改善することにはつながりません。ですので、カリエスリスクが高い患者さんは、補綴で治したとしても潜在的なカリエスリスクは変わらないので、こちらではそういう人に固定制補綴によるフルマウス治療を行うのは「禁じ手」のような印象です。
 
もしも口腔内に上記「4つのカリエスインディケーター」がひとつもなかった場合、「9つのう蝕危険因子」を診査することで患者のう蝕活動性を評価します。
 
① ストレプトコッカスミュータンス、ラクトバチルスが中等度ー高度に存在
② 歯の表面に大量のプラークが蓄積
③ 食事以外の間食で、1日に3回以上スナック菓子を食べる
④ 深い小窩裂溝
⑤ 薬物の使用
⑥ 口腔乾燥
⑦ 薬の副作用、放射線治療、全身疾患による唾液減少
⑧ 根面の露出
⑨ 矯正装置
 
 
また、これとは別に「11の防御因子」というのがあります。
 
1)所属するコミュニティががフッ素を水道水に混ぜたりしてる
2)1日少なくとも一回、フッ素いり歯磨き粉で歯を磨いている
3)1日2回、フッ素いり歯磨き粉で歯を磨いている
4)フッ素洗口剤を使用
5)5000ppmのフッ素歯磨き粉を使っている
6)過去6ヶ月の間に歯科医院でブラシでフッ素塗布(fluoride varnish)
7)過去6ヶ月の間に歯科医院でトレーでフッ素塗布(fluoride topical)
8)過去6ヶ月の間にクロルヘキシジンを使用
9)過去6ヶ月の間にキシリトールガムを1日4回
10)過去6ヶ月の間にカルシウムやリンが入ったペースト(要はMIペースト)を使用
11)十分な唾液量がある
 
 
最終的に、これらの危険因子と防御因子のバランスをみて、患者さんのリスクを「高」「中」「低」に分類します。ちなみに、「高リスク」と診断された患者さんが「口腔乾燥」を持っていた場合、「超高リスク」となります。この場合、いくら歯がいっぱい残っていたとしても、抜歯して総義歯かインプラント補綴を勧める場合が多いです。インプラントは虫歯にならないからです。
 
 
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4つのカリエスインディケーターに引っ掛からなかった場合の評価は結構主観的という印象です。迷ったら患者のカリエスリスクを高めに見積もれ!と論文には書いてあります。
面白いのは、このシステムのどこにも「1日何回歯を磨いているか」という項目がないことです。
 
歯ブラシが虫歯予防になるというエビデンスは実はありません。
虫歯予防に重要なのは「フッ素」。そして「食習慣」。
歯ブラシはフッ素を歯に運ぶための「道具」にすぎません。