クリニカルリマウント①


総義歯を作る上で最も重要なことのひとつは、義歯を患者にセットする前に「クリニカルリマウント」をすることです。
 
「クリニカルリマウント」とは、セット日、粘膜面の調整が終了した後にチェックバイトをとってもう一度チェアサイドで完成義歯を咬合器にリマウントする工程を指し、義歯を重合後、技工室で完成義歯を咬合器にリマウントして咬合調整をする「ラボリマウント」とは分けて語られます。
  
この方法で作製された義歯の調整回数は2回以下とディレクターは言います。そして、粘膜面の褥瘡はほとんどなく、小帯部やオーバーエクステンションしたフレンジのマイナーな調整ですむと。
もしクリニカルリマウントをしなかった場合は、セット後の調整は5回ほど覚悟した方がいいとのことで、それは日本にいた時の自分の臨床実感と一致しています(大体3〜5回くらいという印象)。
 
総義歯は柔らかい粘膜の上に乗っています。もし咬合がずれていても、義歯が粘膜の上で動いて、義歯に与えられた嵌合位の位置に<見かけ上>落ち着いてしまいます。義歯に力が加わるたびに生じるこの動きが顎堤を損傷し、ひどいときには褥瘡性潰瘍につながります。
 
サンアントニオでは口腔内で総義歯の咬合調整をすることは決してありません。それは、それほどに口腔内で総義歯の咬合調整をすることが難しいからです。そして、一度クリニカルリマウントを経験した歯科医師ならば、見かけ上噛んでいた口の中と、リマウント後の咬合器上での咬合状態がいかにずれているかということに驚くでしょう。
 
そして、クリニカルリマウントでは、咬合器上でインサイザルガイドピンの位置を変更する必要があります。これが何を意味するか、僕の講義をこの前受けた人ならわかりますね。そう、「生体の開閉口軸と咬合器上の開閉口軸を近似させるためにフェイスボウをとり、半調節性咬合器に装着する必要がある」のです。
 
 
 
これをサポートする論文を一本、「Complete Denture」フォルダにアップロードしました。興味のある方は読んでみてください。エビデンスレベルとしてはあまり高くはないと思いますが、上記述べたことを実によく物語る結果だな、と初めて読んだ時思いました。
 
Shigli et al, 2008 PubMed ID:18182188  
RCT、30名の無歯顎患者を以下の三つのグループに分け、コンベンショナルな総義歯を作製。
 
LCRO: ラボリマウント+クリニカルリマウント
LRO: ラボリマウントのみ、必要とあらば口腔内でも調整
OOC: リマウントはせず、口腔内でのみ調整
 
結論としては、「リマウントはセット後の調整回数を有意に減らした」「LCROは、他のグループに比べて咀嚼中の痛みが有意に少なかった」、「LCROは他のグループに比べて咀嚼が有意に快適であった」、「LCROは、他のグループに比べ、顎堤の疼痛部位が有意に少なかった」です。
 
ちなみにLCROでは10人治療して、セット後の調整が全員一回で済んでます。比較的顎堤のいい症例を選んでいるとはいえ、驚異的な結果です。