うちのプログラムでは「クリニカルリマウント」を非常に重要だと考えているので、フェイスボウが必須になります。なぜなら、チェックバイトをとってリマウントをした段階では、ちょうど有歯顎の患者を中心位でマウントしたときのようにどこかの歯が1〜2点当たっているだけなので、そこから1〜2mm「咬合器上で咬合高径を変化させながら」咬合調整していく必要があるからです。このためには生体の開閉口軸と咬合器の開閉口軸が近似している必要があります。
さて、いつフェイスボウを使うかですが、これは「咬合採得のとき」です。みなさん蝋堤に突き刺すようなタイプのバイトフォーク見たことあるでしょうか?あれ使うんです。で、上顎はフェイスボウで、下顎は中心位で、半調節性咬合器にマウントします。うちのプログラムではハノーの咬合器を好んで使っています。理由は関節部が''closed
track''なので、偏心位での咬合調整がやりやすいからです。
半調節性咬合器を使う利点はもうひとつあって、顆路を調節できるので、偏心位でのバイラテラルバランス(両側性平衡)を平均値咬合器よりは精密に構築できます。「enter
bolus, exit balance = 食べ物が口に入った瞬間にバランスが失われる」という格言もあるように、総義歯において両側性平衡を確立することがどれほど重要か諸説ありますが、補綴専門医の指導医試験に提出するケースでは「切端位までしっかり両側性平衡が確立されている」ことが求められるので、補綴科では平均値咬合器を使うことはないですね。
前後左右にバランシングコンタクトを作るのは結構難しくて(特に前方運動)、臼歯部人工歯の咬頭傾斜や調節湾曲も症例に応じて変える必要があります。ですので、臼歯部人工歯の形態は、前歯部が並んで「アンテリアガイダンス」が決まり、チェックバイトで咬合器の「顆路角」をセットした後に決めます。「アンテリアガイダンス」「顆路角」が急な場合は、咬頭傾斜が急な人工歯を使わなければバランスを構築することはできません。
ちなみに医科歯科のやり方はほぼ「モノプレーン」です。これはおそらくですが、僕の師匠の小林先生の「無歯顎者は有歯顎者と違って極端な偏心運動をとることは稀なので、義歯は嵌合位中心の数mmの範囲でバランスをとっていればいい」という考えに基づいています。なので、中心位でしっかり咬んでいればそれでOKという感じ。調節湾曲もほとんどつけず、犬歯から臼歯までフラットに並べます。
どちらのやり方が患者にとって良いのか、そして自分に合っているのかは、今後症例を重ねる中で考えていきたいと思います。
このテーマに関連するAbduoとZhaoのシステマティックレビュー(といってもRCTの数が少ないのでエビデンスレベルとしては低いですが)をドロップボックスにアップしたので興味のある方は読んでみてください。