フルマウスリハビリテーションとは、術者が患者さんの顎位を決定し、その顎位を基準にして全ての歯を修復する処置のことをいいます。
ここで、まず始めに私たちが考えなくてはならないのは、どの顎位を基準にしてリハビリテーションを行うのか、ということです。私たちには三つの選択肢があります。
1 咬頭嵌合位
2 中心位
3 筋肉位
咬頭嵌合位は、患者さんの歯によって決まる顎位です。上下の歯が最大面積で接触するときの下顎の位置です。咬頭嵌合位は、若年者や健全歯列を有するものでは再現性に富み、安定しているといわれています。
中心位は、患者さんの顎関節の中での下顎頭の位置によって決まる顎位で、これは歯とは無関係に決まる下顎の位置です。このため中心位には、咬頭嵌合位とは異なり、咬合高径がありません。たとえばある患者さんで、下顎頭が中心位の位置にあれば、閉口時も中心位といえるし、開口時も中心位といえます。中心位で閉口したときに最初に歯がかみ合う位置を中心咬合位といいます。
筋肉位は患者さんの咀嚼筋群の活動によって決まる顎位です。筋肉位は患者さんの姿勢によって大きく影響を受けてしまい、安定した位置とはいえないので、使用には適しません。筋肉位は通常咬頭嵌合位より前方にあります。
たとえば、次のような患者さんを考えてみましょう。
この患者さんは、全ての歯がTooth Wearに蝕まれており、咬合が崩壊しています。
前医はこの患者さんに、咬頭嵌合位を基準にした 遊離端義歯を作製しましたが、患者さんはこれではなにも噛めないと訴えておりました。よく見てみると、咬頭嵌合位では上下の中切歯の正中が患者さんにとっての左側にずれているのに、開口時にはほとんどそろっているのがわかります。こういったケースに対して安易に咬頭嵌合位での補綴を行ってよいのでしょうか?
この患者さんの咬頭嵌合位は不安定になっており、また、顎位の低下も疑われました。それゆえ、このケースで、私たちは咬頭嵌合位を中心に修復を行うことはできません。
では、私たちはどの顎位を基準としてこの患者さんの治療を行ったらよいのでしょうか?
こういうケースで私たちが基準とするべき顎位が中心位になります。
中心位は、先ほども述べたように、顎関節の中での下顎頭の位置によって決まる顎位で、歯とは無関係に決まる下顎の位置です。それゆえ、上に挙げた咬頭嵌合位を参照できないケースや、咬合高径を挙上しなくてはならないケースでは、中心位が唯一、再現性をもった顎位足りうるのです。
フルマウスリハビリテーションは、患者さんの中心位を探し求める所から始まります。