上顎無歯顎の評価


評価は

poor

fair

good

excellent


の四段階に分かれます。

 


[支持]

一次支持域(Primary Stress Bearing Tissue)

  臼歯部顎堤頂

二次支持域(Secondary Stress Bearing Tissue)

  硬口蓋

 

まずは臼歯部顎堤の状態を診査するところから始めます。もっとも重要なのは一次支持域である上顎結節の形態です。手指で顎堤を垂直的に加圧しながら前後左右に動かすことで、歯槽骨の凹凸を触知します。これらの組織が厚いか薄いか、骨隆起や骨の鋭縁がないか、などが診査の対象となります。もしイレギュラーな形態が触知されれば、支持はfair-poorとなります。顎堤の幅も重要で、幅が狭い顎堤よりは広い顎堤の方が良好な支持を期待できます。

 

また、二次支持域である硬口蓋に骨隆起がある場合は良好な支持は期待できません。

 

前歯部顎堤に関しては、フラビーガムがあるかどうか、切歯乳頭や口蓋鄒壁の唇舌的な位置が問題となります。もし患者が多くの頬側骨を失っている場合、これらの解剖学的ランドマークは見かけ上頬側に移動します。その場合、前歯部顎堤頂の幅はせまくなるので良好な支持は期待できません。フラビーガムがある場合は、安定した中心位咬合を構築できないので、外科的切除を検討しなくてはならない場合があります。

 

 

[把持]

把持は、顎堤の高さと口蓋の形態によって評価されます。

Engelmeierの分類が非常に有効です。Class1がGood、Class2がFair、Class3がPoorです。

顎堤の立ち上がりの部分が水平的な加圧に対して抵抗するので、V字型や平らな顎堤には良好な把持力を期待できません。

Engelmeier et al, 1996 


[維持]

維持は上顎総義歯の予後に最も影響を与える要素。

辺縁封鎖は、義歯の床縁が「displaceable tissue=変位可能な組織」に置けるかどうかにかかっています。上顎総義歯の辺縁封鎖は軟口蓋の形態に大きく影響され、これは「House's Palatal Throat Form」によって分類されます。

 

この他、維持力はアンダーカットの有無や小帯の位置にも影響を受けます。小帯の直下にアンダーカットがあるようなケースではその部分に良好な辺縁封鎖を期待することは難しいでしょう。

 

 

House's Palatal Throat Form


House's Palatal Throat Formは振動線(Vibrating Line)と、硬口蓋・軟口蓋の境界との距離によって、以下の三つのクラスに分類されます。振動線と硬口蓋・軟口蓋の境界が離れているほど「Movable Tissue/Displaceable Tissue」の量が大きくなり、義歯の維持は良好になります。


 

 

Class Ⅰ 5mm以上 →   Ideal Retention

 

 

 

ClassⅡ 1-5mm   →     Good Retention

 

 

 

 

ClassⅢ   1mm以下→    Poor Retention

 

Shelly et al, 2015


振動線の位置を確認する方法

 

患者さんに断続的に「ア」「ア」「ア」と発音してもらいます。

このとき患者さんがあまり大きな声を出しすぎると軟口蓋が過度に挙上されてしまうので注意が必要です。同じ理由で、ノーズブロウテクニック(鼻をつまんで息を強く)も推奨されません。

 

ちなみに、口蓋小窩の位置と振動線の位置関係については関連があるとエビデンスではサポートされていないので、基本的には参考にはしません。

 

 

 


参考サイト


https://sites.google.com/site/drmina2011/researches/posterior-palatal-seal

 

http://www.jaypeejournals.com/eJournals/ShowText.aspx?ID=2454&Type=FREE&TYP=TOP&IN=~/eJournals/images/JPLOGO.gif&IID=201&isPDF=NO