ステュワートのパーシャルデンチャー③


繰り返しになりますが、「歯の長軸方向以外から加わる力」は「歯の長軸方向から加わる力」に比べて17.5倍有害であるとの報告があり(Synge et al,1935)、このため、義歯床に加わる力をいかに歯の長軸方向に変換して支台歯に伝達するかは、パーシャルデンチャー設計における重要な課題です。「Torquing Force=歯を回転させる力」と「Tipping Force=歯を遠心に傾ける力」は特に有害なので注意する必要があります。
 
一番注意しなければならないのは、クラスプが直接かかる歯の負担過重です。でなければパーシャルデンチャーはただの「抜歯鉗子」になってしまいます。
 
支台歯にかかる力を最小限に抑える工夫はいくつかありますが、今回は「前処置」にまつわる工夫を簡単に説明していきたいと思います。
 
 
① 把持腕のレシプロケーション
 
 図の3−18はステュワートのテキストブックの中でも最も重要な図のひとつです。RPDが装着されるとき、把持腕が歯に最初に触れて、維持腕がアンダーカット領域に入り込むときに歯を「支えていなければなりません」。これをレシプロケーション=拮抗作用と言います。
左側の図は間違った設計、右側の図が正しい設計です。

基本的なことですが、アンダーカットに入るのはクラスプの「維持腕」のみです。把持腕はサベイラインの直上で止まり、アンダーカット領域には入りません。日本のいわゆる「保険の入れ歯」では、両方アンダーカット領域に入っていたり、このレシプロケーションが全く無視されている場合が多々あります。医科歯科では片側処理の場合は維持腕も把持腕もアンダーカット領域にいれる、とライターの先生から習った記憶(大山先生の教科書にもそう書いてあったような、間違ってたらごめんなさい)がありますが、レシプロケーションの部分をどう正当化しているのか気になるところです。
 
レシプロケーションを正しく得るためには、支台歯舌側の「リカントゥアリング」が必須です(下図)。

支台歯舌側面がきちんと形成されていない場合、クラスプの維持腕がアンダーカットに入り込むたびに歯を舌側に押す力が働き、それは把持腕によって適切に支えられないということが起こります。これは支台歯にとって極めて有害であるとされています。
 
実際にこれらの処置をきちんと口腔内で行うことは極めて困難です。また、口腔内でこれらのことを確認するのは不可能なので、サベイラインとクラスプの位置の検討を通じて上記事項を達成する必要があります。以下にフェニクッスのやり方を紹介します。
 
まずはサベイイングをしたときに、レシプロケーションが得られる理想的な支台歯の形を検討するところから始めます。
 
次にスタディキャストを「複製」して、複製模型上で予備のリカントゥアリングを行います。そのあと、「リダクションコーピング」を製作し、このコーピングを使用してガイドプレーンから舌側面のカントゥアーを実際に口腔内で再現します。これらのことがフリーハンドでできたので故真鍋先生は小林先生から「神」と呼ばれていました。
実際に口腔内で前処置を行った後は、印象をとって、すぐ固まる石膏(日本だとキサンターノ)を用いて模型を作成、サベイングをして理想的なサベイライン、カントゥアーが再現されているかを最終印象前に確認します。
 
 
ところでフェニックスは舌側のプレーティングを好みます。日本語でいうと、「メタルアップ」になるでしょうか。舌側をプレーティングすると、レシプロケーションに使える面積がクラスプの幅から「プレートの舌側面」へと大幅に増加します。つまり、適切なレシプロケーションを与えるのが極めて容易になります。ディスアドバンテージは清掃状態が悪くなることですが、レシプロケーションの獲得、把持効果、スプリィンティング効果の増強、舌感の向上などのアドバンテージの方が大きいとし、プレーティングはサンアントニオやラックランド空軍基地でのファーストチョイスとなっています。
 

② オクルーザルレストの設計
 
 オクルーザルレストの設計も極めて重要です。
歯の長軸と辺縁隆線からレストの最深部を結んだ線が90度以下になっている必要があります。


これが機能時に支台歯に加わる力を歯の長軸方向に位置付けるのを助けます。もしこれが90度以上の場合、レストは支台歯からすべり落ちるような動きをするので、このときに「Tipping Force=歯を傾けるような力」が発生してしまいます。
また、オクルーザルレストは必ず、支台歯の小窩を少し超えたところまで延長しなくてはなりません。小臼歯では大体歯の半分、大臼歯では歯の1/3近くまでレストは近遠心的に延長されます。歯の中心に近いほど、レストを通じて支台歯に加わる力は歯の中央に伝達されます。クラトヴィルの設計では、大臼歯であっても歯の中心窩までレストは延長されていましたが、それはオーバートリートメントということで、ステュワートではやらないようです。